菜の花の詩(その1)<'99 あやしいわーるど大賞 文芸賞受賞作品>


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)02時52分38秒 

      しばの家

      妻「ねぇあなた、会社やめてどうするの?わたしたちどうなるの?」
      しば「俺はライターになるんだ・・・。」
      妻「ねぇ、そんな夢みたいなこと言わないで・・・繭だってまだ小さいのよ。」
      しば「うるさいっ!女がでしゃばるな!」
      ビシッ(ビンタの音)
      妻「ううっうっうっ・・・。ひっく・・・。」
      しば「はっ・・・(なんてことをしたんだ俺は。妻を初めて殴ってしまった)」


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)03時06分13秒 

      繭「みゅー・・・。」
      しば「はっ。繭、起こしちゃったかごめんな。」
      繭「お母さん・・・。」
      しば「なんでもない、早く寝なさい。」
      妻「繭、大丈夫だから寝なさい。」
      繭「うー。」
      しば「繭・・・。(俺はこの子を悲しませてはいけないんだ・・・。)」
      妻「あなた・・・。もうわかりました。私は止めません」
      しば「みずか・・・。」
      妻「ライターはあなたの夢でしたものね。いいわ。私は応援する。」
      しば「みずか。」
      妻「私はパートでもなんでもやるわ。そのかわり、有名なライターになってね」
      しば「みずかっ」

      しばはみずかの体を抱きしめた。

      繭「みゅー♪」
      しば「繭、俺はがんばるからな!」
      繭「みゅ♪」

         次回予告

      しばを待っていたのは過酷な出版不況の現実だった。


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)03時16分36秒 

      第3話 「つらい現実」

      しばは友人のつてをたどって、出版業界大手の
      講談社「週刊現代」編集部を訪れた。
      「あ、あの、宮田さんの知り合いのしばと申しますが」
      「少々お待ちください。」
      受付で待つこと3分、宮田はやってきた。
      「やぁしばくん。」
      「宮田さん・・。」
      「どったの?今日は。」
      「あ、あの仕事をいただきたくて。」
      「仕事、あ、ああうん。こほん。ま、とりあえずサテンでも行こう」
      「は、はい。」
      宮田としばはちかくの喫茶に移動した。
      「仕事?君、確か会社員じゃなかったっけ?」
      「昨日、やめたんです。ライターになるために」
      「ぶほっ本当?」
      「はい。妻にも了承を得ました。」
      この時、宮田は思った。
      (参ったな。こいつ、俺のこと頼りに来てやがる。たしかに
      二ヶ月前、飲みに行ったとき「君ならうちのライターやれるよ」
      なんて言っちまったが、まさか本気にするとはな。)
      宮田としばは大学時代の先輩後輩の中である。
      「ま、しばくん、俺も仕事さがしてやるよ。」
      「そうですか!よろしくお願いします!」
      「ちょっと待っててよ。なんか見つけてあげるからさ」
      「ありがとうございます!」
      しかし、宮田は思った。
      (参ったな。こいつがうちに書ける文章なんてねーよ。
      はぁぁったく勝手に人をあてにしないでほしいよ。
      さっきデスクになじられた後だってのに)

         次回予告

      どこからも仕事がないしば。
      しかし、やすらぎは繭の無邪気な笑顔だった。


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)03時30分24秒 

      第4話 「天使の微笑み」

      何も仕事が見つからない日々が続いた。
      ありとあらゆる人脈を駆使し、仕事をもらおうとしたが
      どこにも断られた。
      「ちくしょう、出版不況がこんなに進んでいたなんて!」
      しばはネット上では確かに有名人かもしれないが、
      現実社会、世間一般では無名に近い。また、37という彼の
      年齢も足かせになっている。
      「あなた・・・。」
      みずかは夫に対してかける言葉もなかった。
      「このままじゃ・・・なんで会社やめてまでライターになったのか
      わかんねぇな・・・。」
      しばは悲痛な表情でボソッと言った。
      失業保険はあと3か月。その間に仕事を見つけなければ
      一家心中である。
      「ちくしょう!」
      バン!
      しばはテーブルを強く叩いた。湯飲みが倒れる。
      「ちくしょう・・・。」
      「あなた・・・。」
      そこへ、ふすまが開いた。
      「みゅ・・・。」
      「繭・・・」
      目をこすりながら隣で寝ていた繭がこっちの部屋に来た。
      「ごめんね、繭起こしちゃって。なんでもないのよ。さっ
      お布団にもどろうね。」
      「みゅー。」
      「繭・・・」
      しばは繭の顔を見るなり、繭に抱き着いた。
      「繭!」
      「ふえ?」
      「パパは、パパはがんばるからな!お前とみずかのために!」
      「あなた・・・。ううっ・・。」
      「ぱ、ぱ・・・?」
      「仕事が入ってお金になったら、腹いっぱいハンバーガー
      食べさせてやるからな!繭!」
      「うん♪」
      繭の顔が笑顔になった。
      そんな繭をしばは強く抱きしめた。

          次回予告

      しばの元へ朗報が入る。


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)03時42分13秒 

      第5話 「浮上」

      しばは最近は大好きなはずのインターネットを
      していなかった。電話代節約もあるが、
      何しろ毎日、出版社に足を運んでいるので夜は
      クタクタですぐに寝てしまったりする。
      しかし、メールチェックは怠らない。
      仕事の依頼があれば、といつも毎朝祈るようにチェックしている。
      無職になって3週間目の朝、しばの元へ一通のメールが届いた。
      「山崎です。しばさん、このメール見たらご連絡ください」
      「山崎さん?なんだろう。」
      山崎とはコンピュータ関連の有限会社の社長でしばのネット上の友人である。
      しばは会社が始まる9時ごろ山崎の元へ電話をかけた。
      「あの、しばですか。」
      「おうしばちゃん、俺だよ。仕事ほしいんだってね。あるよ。」
      「ほんとうですか!!」
      しばはつい大声をあげてしまった。
      「ははは。そんなに喜ばなくてもいいのに。」
      「いや、つい・・・」
      「ま、とにかく今から来れる?うちの会社。」
      「は、はい!」
      しばは電話を切った。
      「おい、みずか!仕事が見つかったぞ!」
      「本当?あなた!よかったわね!!」
      「ああ、今から山崎さんのところへ行ってくる!繭をよろしくな」
      「いってらっしゃいあなた!」

          次回予告

      しかし、現実はそう甘くなかった。


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)03時56分19秒 

      第6話 「幻想」

      山崎の元へ向うしば。期待に胸がはずむ。
      電車の中でしばは笑みをかくせなかった。
      (仕事が・・・仕事がもらえるんだ・・・!!)
      しばの頭の中は繭とみずかの笑顔でいっぱいだった。
      「よし!がんばるぞ!」
      しばは拳をにぎりしめて、駅に降りた。

      山崎の会社に着くと、山崎の奥さん(副社長)が応対してくれた。
      「ちょっと主人は出てますので、すぐに帰ってきます。」
      「は、はい。」
      応接室で出された紅茶をしばはすする。
      「いやぁ、しばちゃん待たせたね。」
      「あっ山崎さん、ども」
      「はっはっはっ、まぁすわりなよ」
      「はい。」
      「最近、仕事ないんだって?まぁ不景気だからねぇ。
      特に出版なんてのはやばいでしょ。ほら中公とか主婦の友とかさ。」
      「はい。全然仕事がなくて困ってますよ。」
      「まぁ、気を落とすなよ。そうそう、仕事ってのはね、これなんだ。」
      「・・・?」
      しばは山崎から一枚のチラシを見せてもらった。
      「うちの会社が今度、素人向けにパソコンセミナーやるんでさ、
      その教材作ってくんないか?」
      「え・・・?」
      「一週間ぐらいの講習なんだけど、近所のおばちゃんたち集めてうちの
      会社の会議室使ってやろうと思うんだ。素人相手に。使うテキスト一緒に作ってよ。」
      「は、はい・・・。」
      「ギャラはその、二万ぐらいなんだけどさ。しばちゃん原稿早いだろ?
      すぐ出来るさ。やってくれないか?」
      この時、しばは思った。
      現実は甘くないと。ライターという仕事にかっこよさという憧れを
      持っていたしばにとって、山崎の依頼は身にしみた。
      「ん?しばちゃんどうしたの?」

             次回予告

      しばは仕事を引き受ける。
      そして・・・!


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)04時09分39秒 

      第7話 「自分というもの」

      「パパおそいね、繭・・・。」
      「みゅー♪」
      テーブルで折り紙をしている繭。
      もう6時だというのに電話もない。
      みずかはしばの帰りを待っていた。
      「今日はカレーなのにね、繭。」
      「みゅー♪」

      そのころ、しばは家路をとぼとぼ歩いていた。
      妻になんて言えばいいのだろう。
      勢い良く、家を出てもらった仕事がたった2万円の仕事。
      しかも原稿の枚数は50枚にも及ぶ。
      割の合わない仕事だ。しかし、やらなければいけない。
      「ただいま。」
      しばは玄関につくなり、顔を笑顔に変えた。
      妻と子に暗い顔を見せては駄目だ。そう思っていると
      自然に顔も変わる。
      「ぱぱーっ♪」
      「おお繭、ただいま。」
      「おかえりなさい、あなた。」
      「ああ、みずか。仕事もらってきたぞ。」
      「本当?!よかった!」
      「ああ、後でゆっくり話すさ。」
      「うん。お風呂は?」
      「繭はどうした?」
      「パパと入るってきかないのよ。一緒に入れてあげて。」
      「ああ。」

      繭との風呂の中でしばは思った。
      「なんだ、こんな仕事。くじけちゃいけないな。」
      例え、二万円でも仕事は仕事。がんばるしかない。
      「みゅー♪」
      繭がしばに水鉄砲をかける。
      「あっ繭やったな!」
      「みゅ〜♪」
      「こらっ」
      そこへ、みずかがやってきた。
      「あなた、背中流すわ。」
      「みずか・・・。」
      「今日はおめでとう。」
      「ああ。ありがとう。」

           次回予告

      繭の学校の三者面談に行くしば。


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)04時32分49秒 

      第8話 「こぶし」

      しばが会社を退職してから1ヶ月。
      雑誌媒体にも、無署名記事だが
      ライターとしての仕事は増えて行った。
      しかし、会社員時代の月収に比べれば
      その半分にも満たない収入だ。
      だが、しばには確かな手応えを感じていた。
      ライターとしての経験が増えて行くに連れ、
      自信もついてきたようではあった。

      そんなある日、みずかからプリントがしばに手渡された。
      「なんだ?これは。」
      「繭の学校の三者面談。行ってくれるわよね。」
      「ああ、土曜か。いいだろ。一緒に行こう。」
      「みゅー♪」
      「繭、土曜日パパも学校いくぞ。」
      「ほえ?」

      土曜日午後。繭の教室の前の廊下でしばはみずかと話ていた。
      「繭の担任ってどんな人なんだ?」
      「さぁ、他のお母さんたちから聞いたんだけど、外国の大学出ている
      エリートらしいわよ。」
      そこへ、ドアが開いた。
      「あ、芝さん、次どうぞ。」
      「は、はい。」
      しばは緊張した面持ちで教室に入る。
      「まぁ、かけてください。」
      「あ、ども」
      「担任の石田です。どうも。」
      「あ、繭の父親の雅之です。」
      「母のみずかです。娘がいつもお世話になっております。」
      担任の石田は成績表を眺めながら話す。
      「ふむ・・・。おたくの繭さん、成績悪いなこりゃ。」
      「は、はぁ・・・。」
      「授業中はみゅーみゅーうるさいしさ、参るよこっちは。」
      「は、はぁ・・・。」
      「MIT卒の俺の授業が黙って受けられないのかね。ったく。」
      「は、はぁ・・・。」
      「んで、お父さんあんた仕事なにやってんの?リーマン?」
      「あ・・・会社は退職しまして、今はライターやってます。」
      「ライター?ハッハッハ。食って行けてんの?ハハハッ」
      「まぁ、ぼちぼちと・・・。」
      「ククク、父親がライターで、娘がアレか。ドキュンだな。ケッ
      目撃ドキュンって知ってます?ヘッヘッヘ」
      「貴様!!」
      しばは石田の襟をつかんだ。
      「な、なにするんだアンタ。う、訴えるぞ!」
      「あなた!やめて!」
      「はっ・・・。」
      しばは思った。ここで怒りに任せて担任を殴れば
      繭が学校で傷つく・・・。しばは怒りを抑えた。
      「ふん、さっさとでていってくれ。次の人の番だからな!」

      しばとみずかは学校を出た道をとぼとぼと歩いていた。
      「すまん、みずか・・・。」
      「いいのよあなた。あれで怒らなければあなたじゃないわ」
      「みずか・・・。」

            次回予告

      ついにしばのライター人生に最初の大きなチャンスが訪れる


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)04時53分16秒 

      第9話 「チャンス」

      ある日の日曜日。
      「ぱぱーっ」
      「こらこら、繭やめなさい。」
      パソコンで原稿書き中のしばに繭がぎゅっと抱き着く。
      「こらぁ繭、パパはお仕事中なんだから邪魔しちゃだめよ」
      「ぱぱーっ」
      「繭!」
      退職して二ヶ月、しばの元へ署名記事の依頼が増えてきた。
      友人の山崎や黒沢のおかげもあるが、なによりしばの仕事の速さと
      取り組み方のまじめさが認められたということでもある。
      「繭、もうちょっと待っててな。もう少しで終わるから」
      「みゅー♪」
      「繭、お母さんと遊んでいよ。ねっ」
      「ん♪」
      トルルル
      その時、電話がかかってきた。
      「あ、私が出るわ。あなたはお仕事続けてて。」
      ガチャ。みずかは受話器を取った。
      「はい、しばですが。あっ白夜書房の斎藤さん。ちょっとお待ちください。」
      受話器に手のひらをふせるみずか。
      「あなたー、白夜書房の斎藤さんからお電話ですよ」
      「おっ、今行く。」
      しばはみずかから受話器を受け取った。
      「は、はいしばですが。あっ斎藤さん。原稿の方やってますよ。はい。」
      「さ、繭。パパお電話中だからあっちいってよーね。」
      「みゅー♪」
      そのときだった。
      「は、はい!!やらせていただきます!」
      しばから大きな声が聞こえた。
      「は、はい、喜んで!!はい!」
      長い会話の後、ゆっくりとしばは受話器を置いた。
      「みずか・・・。」
      「ど、どうしたのあなた?」
      「みずかぁっやったぞ!大きなチャンスが来たぞ!!」
      「あなた?!」
      「みゅー?!」
      「斎藤さんからな、今度、本をな、出すんだって。
      俺も関わるらしい!やった!!」
      「まぁっよかったわね!あなた!」
      「みゅー♪」
      「やったーやったー!!」
      しばは繭のからだを抱きしめて喜んだ。
      「う・・・。」
      みずかの頬を涙が伝わっていた。

             次回予告

      しばは編集部に出向く。


 投稿者:   投稿日:1999/05/01(土)05時15分06秒 

      第10話 「ハッカージャパン」

      「ん・・・。はうっ・・・。あっ・・・。」
      みずかは喘ぎ声をもらす。
      「はぁっ・・・みずか・・・。」
      「ああっ・・・あなた・・・。」
      まとわりつくように、しばの舌がみずかをなでていく。
      「んっ・・・・」

      行為が終わり、布団の中でしばは煙草をふかす。
      「ねぇ、あなた・・・。」
      「ん?なんだ?」
      「今度の大きなお仕事、がんばってね。」
      「ああ。大丈夫だ。」
      「繭も、応援してるわ。」
      「うん・・・。繭の笑顔を見てると、俺もがんばらなきゃと思うよ。」
      「あの子、最近あなたにすごくなつくようになったわね。」
      「ああ・・・。会社に勤めていた頃は繭にかまう暇なかったからな。」
      「あの子もきっと分かってるわ。あなたのことを。」
      「うん・・・。この仕事絶対に成功して、繭になんか買ってやらなきゃな。」
      「がんばってねあなた。」
      「ん・・・。」
      くちづけを交わし、しばはスタンドの明かりを消した。

      次の日。しばは白夜書房の編集部にいた。
      「おっしばくん、待っていたよ。」
      「斎藤さん。これ、この前の原稿です。」
      「相変わらず早いね、しばくんは。ありがたいよ。」
      「それ、俺に対する嫌味っすか〜?」
      しばと斎藤の間に入ってきたのは売れっ子ライターの橋本だ。
      「おお、橋本くん、こちらがしばくん。ほら知ってるだろ」
      「ああ!あの、あめぞうとかいう奴の管理人でしょ?」
      ムッと一瞬しばの顔が曇る。
      「あやしいわーるどです。」
      「はははっすまんすまん。ごめんなしばくん。そうそう、あやしいナントカだよな。うん」
      ここで怒るのは昔の俺だ・・・。しばはそう思った。
      「じゃ、さっそく本の話に移ろうか。」
      「は、はい。」
      「他の執筆者を色々呼んだんだけど・・・まぁ先に始めよう」
      「斎藤さ〜ん、タイトルはなんなのぉ?」
      橋本が甘ったるい声で聞く。
      「タイトルは・・・ハッカージャパンだ。」
      「ハッカージャパン!」
      しばはなにかを予感した。

             次回予告

      年下の先輩たちにライバル意識を燃やすしば


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)02時24分54秒 

      第11話 「誇り」

      白夜書房を出て、最寄りの地下鉄に乗ったしば。
      「ハッカージャパン・・・。」
      その言葉の響きに運命的なものをしばは感じた。

      「ただいま」
      「ぱぱー」
      「繭、ただいま。」
      「おかえりあなた。今日、どうだった。」
      「ああみずか。手応えあったぞ。雑誌を創刊することに
      なってな。それに関わることになったよ。」
      「本当?おめでとう!あなた。」
      「まぁ、どれくらい出来るか分からないが、がんばるよ。」
      「がんばってね!」

      その夜、しばは夜遅くまでネットをしていた。
      自分の得意分野で仕事がもらえることになる・・・。
      昼間の斎藤からのハッカージャパンについての説明を
      思い出していた。
      「これは世界初、ハッカーを対象にした専門誌だ。
      歴史的な一冊になると俺は思う。しばくん、君の得意分野
      を生かせるときが来たんだよ。」

      しばは胸を躍らせながら、その夜ネットをした。

          次回予告

      しばの前に現れるライバル・ライターたち。
      その中でしばはある少女と出会う。


 投稿者:   投稿日:5/2(日)1:11 

      第12話 「志保」 
       
      編集部へ向うしば。 
      今日は「ハッカージャパン」の第二回の編集会議だ。 
      しばにとって、一人前のライターとしての感覚が芽生えて 
      きたのか、足取りも緊張したものではなくなってきた。 
      「おはようございまーす。」 
      「おっしばくん、おはよう。」 
      しばが編集部に入ると、見知らぬ女子高生風の少女がいた。 
      「あら、この人だぁれ?」 
      その少女はしばを見るなり指を差した。 
      「志保ちゃん、この人はあやしいわーるどの管理人の・・・。」 
      「もしかして、しばさんってこの人?」 
      「は、はい・・・。」 
      しばはどもりながら返事をした。 
      「うわぁっ、私ファンだったの。うれしいなっこんなところで会えるなんて」 
      「斎藤さん、この子は・・・?」 
      「ああ、ハッカージャパンの執筆予定者の一人、長岡志保ちゃんだ。」 
      「よろしく〜志保で〜すっ」 
      志保という少女はしばの顔めがけてVサインをした。 
      しばはショックを受けた。てっきりはじめは白夜書房のグラビアモデル 
      かなにかと思っていたら、こんな若い女の子が自分と同じライターなんて! 
      「彼女はエミュレータについてはプロなんだ。その道では有名なんだ。」 
      「は、はぁ・・・。」 
      しばは思った。40近い自分がやっともらえた仕事をこの志保という 
      少女は10代で手に入れてしまっている。この差はなんなんだ・・・? 
      これがライターという実力の世界なのか。会社にいたころには考えられないことだった。 
      しばはいかに自分が甘い世界にいたかが分かった。 
       
      会議が終わり、しばは疲れた表情で編集部を出る。 
      「じゃあね、しばくん。」 
      「あ、斎藤さんども。」 
      しばにとって、今日出会った若いライターたちはショックだった。 
      「負けちゃいられない・・・!俺には後がないんだ。 
      やるしかないんだ。やらなきゃいけないんだ!」 
      しばはビルを出て、青い空を見上げてそう思った。 
      「しばさ〜ん」 
      後ろの方から志保の声がした。


 投稿者:   投稿日:5/2(日)1:11 

      第13話 「志保U」 
       
      「しばさんっ!」 
      志保が息を切らしてしばに近寄ってくる。 
      「はぁはぁ、さっさと帰っちゃうなんてひどいよ・・・。」 
      「あ、ど、どうしたの?」 
      「一緒に帰ろうよっ」 
      「あ、ああ・・・。」 
      「せっかく、あのしばさんと出会えたんだから、 
      なんかお話したいと思ったんだ。一緒にお昼食べようよ。」 
      「君、学校はいいのか・・・?」 
      「アタシ?平気だよ。学校は。それより早くお昼食べに行こう」 
      「う、うん・・・。」 
      志保の強引な誘いを断れず、しばは志保と近くの中華料理屋 
      に入った。 
      「あーおなかまんぷく」 
      「食べるの早いな。」 
      「悪かったわね。っていうか出よ。カラオケ行こう。」 
      「お、おい俺はまだ食べてるんだけど・・・。」 
      しばは志保とカラオケに行った。4時間以上も 
      歌い続けた。 
      「もう、帰ろう長岡さん。」 
      「えーっもう?」 
      「俺、もう帰らなくちゃ・・・。」 
      「そうなの?じゃ、出ようか。」 
      やっと志保はマイクをおろした。 
      「あーよく歌った。」 
      「歌いすぎだよ。」 
      「ごめんねーワンマンショーでさ。」 
      「いや、いいけど・・・。」 
      「あっしばさん、公園行こう。」 
      「えっ?」 
      「ちょっと疲れたから休みたい。」 
      「ああ、うん。」 
       
             次回予告 
       
      公園で志保と二人きりになるしば。


 投稿者:   投稿日:5/2(日)1:12 

      第14話 「志保V」 
       
      公園で自販機のコーラをベンチで飲むしばと志保。 
      たわいもない会話をしている。 
      しかし突然志保が切り出した。 
      「ねぇ・・・だめかな、しばさん。」 
      「えっ・・・。」 
      しばの肩に志保がもたれかかる。 
      「子供かな・・・?アタシ。」 
      「そ、そんなことはないよ。だって君は一人前に仕事を 
      もらっているライターじゃないか。」 
      「そういう意味じゃなくて・・・。」 
      「う・・・。」 
      二人は沈黙してしまった。 
      「アタシね、あやしいわーるどでしばさんのこと知って、 
      すごく好きだったんだ。どんな人なんだろうとか、 
      会いたいなってずっと思ってたんだ。」 
      「・・・ありがとう。」 
      「ねぇ、好きになってもいい?」 
      志保がしばの顔を覗き込む。 
      「・・・だけど、俺はダメだ。」 
      「どうして?アタシじゃだめ?」 
      「そうじゃなくて・・・俺には妻と子がいるんだ。」 
      「えっ・・・。」 
      志保はがっくりとうなだれる。 
      「そうか・・・。しばさん奥さんいたんだ・・・。知らなかった。」 
      「・・・。」 
      「アタシ、てっきり独身かと思っていた。はは・・・。」 
      志保はベンチから立った。 
      「なんだカンチガイだったんだ。アタシ、マヌケだね。」 
      「志保・・・。」 
      「あはっ、もういいや。うん。じゃあねしばさん」 
      「あっ・・・ちょっと待て。」 
      「じゃあね、ばいばい!」 
      志保はしばの元から走って去っていった。 
       
           次回予告 
       
      繭が少しずつ大人になっていくことを知るしば。


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)02時35分47秒 

      第15話 「小さな花」

      「みゅー♪」
      ある日、繭が仕事休みで居間で寝転んでいる
      しばに一枚の画用紙の絵を見せた。
      「ほう・・・こりゃ上手いな。繭、どうしたんだこれ?」
      「あなた、それ繭が描いたのよ。」
      「繭が?!へぇ・・・こんな才能があったなんて・・・。」
      しばは思わず絵をじっくりと見詰め直した。
      「上手いな・・・菜の花の絵か。繭にこんな才能があったなんて。」
      「あら、あなた知らないの?繭は絵が上手なのよ。学校でも
      美術の先生からほめられてたんだから。」
      「はぁ・・・父親失格だな。そんなこと知らなかったなんて。」
      トルルル・・・電話が鳴った。
      「あっ俺が出る」
      しばは受話器を取った。
      「はい。しばです。」
      「同じ学校の今田と申しますが、繭さんはいらっしゃいますか?」
      「は、はい。ちょっと待ってくださいね。」
      少年らしき電話の声にしばは戸惑いながらも
      繭に受話器を貸した。
      「みゅー♪」
      「おい、みずか・・・繭の友達か?かけてきたのは」
      「そうでしょ。今田くんていう子。繭と同じ学校らしいの。」
      「その、あの、なんだ・・・?彼氏とかいう奴か?」
      「ふふっ違うでしょ。単にお友達なだけでしょ。」
      洗濯物をたたみながら、みずかはせせら笑った。
      「みゅー♪」
      「しかし、繭はみゅー♪って言ってるだけだぞ。会話が通じてんのか?」
      「でも楽しそうでしょ?きっと繭、その子のことが好きなのね。」
      「お、おい・・・。」

            次回予告

      ハッカージャパンが発売される。


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)02時41分53秒 

      第16話 「記憶に微笑んで」

      しばはその日、白夜書房編集部を訪れた。
      「おっ、しばくん。」
      「斎藤さん、ども。」
      「これ。」
      「なんですか?」
      斎藤から手渡された本を見るなりしばは手が震えた。
      「ハッカージャパン・・・。」
      「おめでとう、しばくん。君もこれで立派なライターだね。」
      「ありがとうございます!斎藤さん!!」
      「これ、創刊号の見本なんだ。後一週間後で発売日だ。
      これで評判よければ、二号三号出していけるからね。」
      「は、はい!ありがとうございました!」
      「いやいや、君もがんばったよね。これからもよろしく頼むよ。」
      「はい!よろしくお願いします!」
      しばは頭を深く下げた。サラリーマン時代、頭を下げるのは
      会社のためでしかなかったが、今は心から斎藤に感謝の気持ち
      で下げている。
      しばはその後関係者にに深くお礼をした後、編集部を出た。
      「奇麗な夕焼けだ・・・。」
      サラリーマン時代、こんな清々しい気分を感じたことはなかった。
      何かを成し遂げたという爽快感、達成感ははじめてだった。
      「俺は間違ってなかったんだな・・・。」
      しばは感慨深く歩く。あの時、会社を辞める勇気がなかったら、
      もし、くじけていたら・・・と過去の記憶と今の自分を照らし合わす。
      「それもこれも、みんな家族のおかげだ。」
      みずかと繭にどれだけ自分が支えられただろうか。
      あの二人がいなければとっくに自分は挫折していたに違いない。
      「ありがとう・・・。」
      心の中でそっとしばはつぶやいた。
      駅でしばはケーキを買った後、家に帰った。
      「ただいま。」
      「ぱぱー。」
      「ただいま、繭。ほらお土産のケーキだ。」
      「みゅー♪」
      「あなた、おかえりなさい。」
      「おっみずか、俺やったぞ!」
      しばは鞄の中から「ハッカージャパン」を取り出す。
      「あなた・・・。」
      表紙にはしっかりと「芝雅之」の文字があった。
      「おめでとう・・・あなた。」
      「ありがとう。みずか。さぁ、メシにしてくれ。腹ぺコなんだ。」
      「はいはい。今出来ますから、手を洗ってきて。」
      「さ、繭、居間に行こう。」
      「みゅー♪」
      しばと繭は居間でじゃれながら夕食を待っていた。
      こんな幸せな日が訪れるなんてしばは思っていなかった。
      人生最良の日・・・。しばはそう感じた。
      ガシャーン ドタッ
      台所の方からガラスが割れるような音と何かが倒れる音がした。
      「どうした?みずか?」
      しばは台所を除いた。するとみずかが倒れていた。
      「みずか!!!」

             次回予告

      倒れたみずかが病院へ運ばれる


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)02時50分08秒 

      第17話 「神様」

      「みずか!みずか!しっかりしろ!!おい!」
      「みゅー!みゅー!」
      しばはみずかの体をゆする。しかし、反応はまるでない。
      みずかは目を開けようとしない。
      「き、救急車を・・・。繭、コンロの火を止めろ!」
      「みゅ!」

      しばはみずかを救急車に乗せて病院へ運んだ。
      「みずか・・・!みずか!」
      「まま!」
      近くの東大病院へみずかは収容された。
      10分後、しばと繭は集中治療室の前にいた。
      「みずか・・・どうして・・・どうして・・・。」
      「みゅ・・・。」
      しばは祈りつづけた。
      「みずか・・・ずっと苦労をかけていたんだな。
      自分のことしか頭になくて気づかなかった俺は本当にバカだ!」
      しばは頭を抱えてうなだれる。
      「みゅ・・・。」
      繭がしばの肩に手を添える。
      「繭・・・。」
      「みゅ・・・。」
      「みずかにもしものことがあったら、俺はどうすればいいんだ!
      うっ・・・俺は本当に馬鹿だ!馬鹿野郎だ!!」
      「みゅぅぅ・・・。」
      繭が涙ぐむ。
      治療室から医師が出てきた。
      「先生!」
      「ご家族ですね?今、麻酔で眠らせているところです。
      今から手術に入ります。」
      「みずかは、みずかは大丈夫なんですか?!」
      「なんとも言えません。ただ最善は尽くします。」
      「先生!」
      治療室のドアが閉まる。

      「神様、お願いだ!みずかは大切な人なんだ。お願いだ!
      俺を殺してもいいから、みずかを助けてくれ!みずか!繭には
      お前が必要なんだ!だからお願いだ!頼む!!」
      しばは心の中で必死に叫んだ。
      「まま・・・ひっく・・・。」
      「みずか・・・!頼む・・・!」

      5時間後、治療室から医師が出てきた。
      「先生!みずかは?!」
      「大丈夫です。一命は取りとめましたよ。
      発見が後、一時間遅れていたら危ないところでした。」
      「・・・よかった・・・。」
      「みゅ〜。」
      しばと一緒に繭も安堵の表情を浮かべる。
      「ただ、絶対安静ですから今のところは。」
      「ありがとうございます、先生!ありがとうございました!」
      「みゅ!」

              次回予告

      みずかに懺悔をするしば。


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)02時58分51秒 

      第18話 「お前というもの」

      みずかが倒れて一夜明けた。
      しばの肩に繭がもたれ、すーすーと寝息を立てている。
      みずかの病室の前、しばは一睡も出来なかった。
      「みずか・・・。」
      今まで、こいつにさんざん苦労をかけてきた。
      その罰が当たったのだろうとしばは思った。
      一人前のライターになりたいだなんて思い上がりだ。
      家庭を振り返らないなんて、ましてや妻の異常に気づかなかった
      なんて夫として最低だ・・・。しばはそう思った。
      そこへ、看護婦が話しかけてきた。
      「しばさん、今ならちょっとだけお話できますよ。」
      「そうですか!」
      「ただし、少しだけですからね。」
      「はい。」
      しばは寝ている繭を起こさぬように、ソファに寝かせ
      自分の上着をかぶせた。
      そして、みずかの病室にそっと入った。
      「あなた・・。」
      ベッドに横たわるみずかがそこにいた。
      「みずか・・・。」
      「ごめんなさい。あなた。」
      「何を言うんだ、謝るのは俺の方だ。」
      「・・・ずっといてくれたの?」
      「ああ。繭は外で寝てる。」
      「繭に心配しないでって言っておいてね。」
      「みずか・・・。」
      しばの目元に涙がにじんだ。
      「みずか、俺が悪かった。一丁前にライター気取りで
      家庭に振り向くことなく、お前をこんなにしてしまった。
      忙しさにおぼれて、自分のことしか考えてなかった。すまん・・・。」
      「あなた・・・。」
      しばらくの沈黙の後、しばは言おうと決めた。
      「みずか・・・俺・・・。」
      それをみずかが口を挟んだ。
      「あなた。ライターをやめるなんて言うんじゃないでしょうね。」
      「う・・・。」
      「駄目よそんなの。弱気にならないで。私、許さないよ。」
      「みずか・・・。」
      「私ね、あなたが自分の道を歩き出したとき、うれしかったの。
      この人と一緒になってよかったなって思ったわ。だって
      かっこよかったもの。」
      「みずか・・・・。」
      「だから、やめるなんて言わないでね・・・。」
      「みずか!うっうっうっ・・・。」
      しばの目から涙がみずかのベッドの上に落ちる。
      みずかはしばの手を握り締めた。

              次回予告

      しばに人々のやさしさがしみる


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)03時06分15秒 

      第19話 「ふれあい」

      しばはみずかの病室を出た後、繭を学校に送り、
      白夜書房の編集部に向った。
      「おっしばくん、どうしたの?」
      「斎藤さん、実は・・・。」
      「ん?」
      「家内が昨晩、倒れてしまいまして、その・・・」
      「大丈夫なのか?」
      「ええ、でも入院することになったんです。それで、
      原稿料なんですが・・・今日、前借りさせていただけませんか。」
      「あ、ああ・・・そういうことならなんとかするよ。」
      「ありがとうございます。斎藤さんには本当に・・・。」
      「いや、僕も奥さんのところへ行くから、病院教えてよ。」

      しばは白夜書房を出た。
      原稿料の前借り、と言っても入院費用や手術費を
      払えるほどの金額ではない。
      「困った・・・。」
      貯金や生活費のことを考えると、とても苦しくなる。
      みずかがいつまで入院するかも分からない。
      ライターというのは収入が不安定だ。
      来月、仕事がなければ本当に困る。
      「どうしたらいいんだ・・・。」
      金融業に借りるにしても、無名のライターに貸してくれるはずもない。
      繭の学費のこともある。しばは途方に暮れた。
      「ちくしょう・・・。」
      今日ほど、自分が無力なライターであるということに
      しばは憤りを感じずにはいられなかった。

      家に帰ると、繭がいた。
      「ぱぱーっ」
      「おっ繭、ただいま。」
      テーブルには焼きそばが並べられていた。
      「繭が作ったのか?」
      「ん!」
      いつまでも子供かと思っていたら、こんなことまで出来るように
      なっていたのか・・・。しばは少し感動した。
      「ぱぱ」
      「ん?ああ、食べようか。」
      トルルル
      電話が鳴った。
      「はい、しばですが。」
      「橋本だけどさ、明日、編集部来れる?」
      「えっああ、行きます。」
      「んじゃ来てね。」
      電話は切れた。
      「橋本さん、なんだろう・・・。」

      次の日、編集部。
      「おっしばさん。」
      「ども、橋本さん・・・。」
      「これ。」
      「えっ?」
      しばは橋本から封筒を手渡された。
      中には数万円が入っていた。
      「こ、これ・・・」
      「気持ちだよ。受け取ってくれ。おっと俺だけじゃないぜ。
      志保やあめぞう、黒沢なんかからみんなで少しずつ
      出し合ったんだ。あんた今、大変なんだろう?」
      「は、橋本さん・・・」
      「いいっていいって。俺達ライターってのは不安定だろ?
      こういうときは仲間で助け合わなきゃな。」
      「うっ・・・ありがとうございます・・・。」
      しばはこの時ほど仲間というものが暖かいと思ったことは
      なかった。

                次回予告

      繭に異変を感じ取るしば。



 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)03時16分04秒 

      第20話 「心配」

      みずかは一ヶ月ほどで退院した。
      そして前と変わらない生活が続いた。
      ハッカージャパンも売れ行きが好調で、隔月だが
      定期刊行されるようになり、しばも収入的には
      安心出来るレベルになってきた。

      そんなある日の夜のこと。
      トルルル
      電話がかかってきた。
      「もしもし、しばですけど。あっ繭ですか?ちょっとお待ちください。」
      しばは繭に受話器を手渡す。
      「みゅー♪」
      「おい、みずか。またあの今田っていう奴から電話が来たぞ。」
      「ふふふ。あなた気になるの?」
      「う・・父親として変な男が繭に寄り付かないようにと思うのは当然だ。」
      「大丈夫よ。今田君って好青年だから。」
      「お前、会ったことあるのか?」
      「家に来たこともあるわよ。」
      「えっ本当か?!なんでそれを早く言わないんだ!」
      「あなた出版社行ってたから・・・。今田君って繭の学校の美術部の先輩なのよ。」
      「そうなのか。なんで先輩がこうして日曜日にも電話かけてくるんだ?」
      「さぁ・・・?」

      次の日曜日。
      「あれ?繭はどうした?」
      「どこかへ出かけたわ。画板もって。」
      「いつもの写生か・・・。俺もちょっと煙草とか雑誌買ってくる」
      「いってらっしゃい気をつけてね。」
      しばはコンビニで週刊誌を買い漁った後、土手沿いをふらふら
      散歩していた。河原では少年野球が見える。
      「ん?」
      しばは土手に座り込むある人影を見つけた。
      「繭・・・?」
      繭らしき人物が座っている。しかし、一人じゃない隣に誰かいる。
      「おーい、繭ー!」
      しばは呼んだ。
      「あっぱぱ・・・」
      しばは近づいて目を見張った。繭の隣に男がいるのだ。
      「あっ、お父さんですか?今田と申します。」
      「あ、ああ・・・。どうも・・・。繭となんでここに?」
      「二人で写生をしていたんです。ね?」
      「うん!」
      しばは一瞬時間が止まった気がした。

       次回予告

      今田に嫉妬するしば。


 投稿者:   投稿日:1999/05/02(日)03時22分28秒 

      第21話 「父と娘」

      「ふぅん・・・しゃせいをね・・・。ふうん・・・。」
      しばは今田を睨み付ける。
      「あ、僕は繭さんの学校の美術部の部長をやってまして」
      「そんなこと聞いとらんよ君」
      「あ、はい・・・。」
      「さ、繭、帰るぞ!」
      しばは繭の手をつかむ。
      「みゅー!」
      「なんだ?帰りたくないのか?帰ろう繭。」
      「みゅー!」
      繭は帰ろうとしない。
      「帰るぞ!!」
      しばは繭を怒鳴りつけて無理矢理手を引いて
      うちへ連れて帰った。
      「あら、繭も一緒なの?」
      二人が帰ってきてみずかはそう言った。
      「ああ、こいつ今田とかいう男と一緒にいたから連れて帰ったんだ。」
      「あなた・・・。」
      「あんな男は俺は信用しない!」
      「あなた、繭だってもうそれなりに・・・。」
      「それなりになんだ!」
      「いや、その・・・。」
      傍らでは繭が涙ぐんでいた。

          次回予告

      繭と今田の交際を渋々許すしば。
      しかし・・・。



     菜の花の詩 その2 くずは ファービー しばの思い出


あやしいわーるど@ふぁみーる(閉鎖) からの転載をまとめたものです。


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